欧州原子核研究 機構(CERN)ならびに隣接自治体視察報告【下】
国際リニアコライダー(ILC)の脊振・福岡地区誘致の必要性と可能性を探るために、超党派市議4名で昨年4月にスイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)の大型加速器実験施設を訪ね、ジュネーブ市など近隣自治体の受け入れ態勢について聞き取り調査をしました。同年9月、国は国内誘致先の決定を先送りし、今年5月新たに「国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議」を立ち上げたところです。同会議ではILCの必要性、実現可能性について再吟味することになりました。わたしはこの動きを歓迎するとともに今後も誘致運動を支援していきます。
今号が視察報告の最終回です。ILC脊振・福岡誘致の課題について整理しましたのでご覧ください。
- ▲ピエール・アラン・チュディ市長(右)とアレキサンドル・マラコルダさん
●州内45基礎自治体のひとつで、人口2万2千人。雇用人口2万4千人。
●1954年のCERN設立時は人口3千人の農業地帯。
●CERN受け入れについては農業への影響を心配したが、中央政府の決定に逆らえず、喜んで受け入れた訳ではない。
●1960年代に国連機関が次々に進出したため、新たに発生する人口1万人に対応できる住宅建設を進めたが、その他の生活インフラの整備が追い付かなかった。
●その後、インフラを整備していったが、使うのはCERN関係者で市民の反感は強かった。
●市民がCERNに雇用されるとは限らず、雇用増とはならなかった。
●最近、CERNがオープンになってきた。CERN入り口付近にグローブという交流施設が造られ、住民とのコミュニケーションが深まった。観客増で市民感情は変わっていった。
●CERN関係者には敷地内に保育所はあるが、地域の保育所の利用で住民との交流が生まれてきた。
●CERNからメイリン市への経済的な支援や効果は一切ない。
●メイリン市の土地利用計画、まちづくりにCERNとの協調体制がとれない。例えば…
①CERNのみならずトラム整備も関与できない。
②CERNはグローブ付近の緑地を駐車場にしたい らしいが、エコグリーンという市の理念と合致しない。
③グローブ周辺に州政府が土地を取得しており市 の意思が通じない。
④市立病院とCERNとの共同事業の促進を望むが、 基礎自治体としてはその法的権限がない。など…
●原子力、放射線を扱う施設についてはデリケートな問題である。州内の原子力発電所設置は違法ではないし、そもそもCERNは原発ではなく、研究機関と認識している。ただ、CERN内の清掃労働者の被曝の可能性については注視している。
●CERN設置のプラス面は、メイリン市が多国籍化したこと、多様な文化を根付かせたことに尽きる。
- ▲リニアコライダーイメージ図
★施設情報の開示徹底と自治体の政策参加促進による住民合意の形成が肝である。
●放射線など安全確保について住民への全情報の徹底開示
●事故等の場合を想定して、施設と関係自治体、住民による協議体を
設置し、合同して原因探求と解決策・対応策を提示する。
★誘致国ならびに誘致する自治体(生活圏域)の総合的な都市力・ポテンシャルの高さが不可欠である。
●一国で施設運営をリードできる国際政治力と経済力
●自治体住民の有する国際性、都市交通インフラの充実
●研究者、家族など施設関係者の教育・医療・コミュニケーション等生活環境の高い評価
★誘致自治体(住民)への利益還元の仕組み作りが必要である。
●物品サービス納入による経済的利益の地元還元
●大学との研究連携、中・高等学校との接点づくり(教師・学生)による実験施設に対する支持基盤の形成
●地域住民参加のイベントを通した施設に対する理解の深化